大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和63年(ワ)11776号 判決

主文

一  甲事件反訴被告プラスパーシステム株式会社は、甲事件反訴原告に対し、一九二万七四〇〇円及びこれに対する昭和六三年一月七日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

二  甲事件反訴被告株式会社キープロンは、甲事件反訴原告に対し、二〇五万三一〇〇円及びこれに対する昭和六二年一〇月七日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

三  甲事件反訴被告フィチュアシステム株式会社は、甲事件反訴原告に対し、一四五万三五〇〇円及びこれに対する昭和六三年二月七日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

四  甲事件反訴被告日本漢方同仁株式会社は、甲事件反訴原告に対し、二七三万四八〇〇円及びこれに対する昭和六二年一一月七日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

五  乙事件被告らは、乙事件原告に対し、連帯して九九万一八〇円及びこれに対する昭和六二年一二月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

六  甲事件原告らの甲事件被告株式会社ジャコスに対する請求、乙事件原告の乙事件被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

七  甲事件原告らの甲事件被告株式会社インテックリースに対する訴えを却下する。

八  訴訟費用は、甲事件について生じたものは本訴反訴を通じこれを一〇分し、その一を甲事件本訴原告セイコー辻本株式会社の、その余をセイコー辻本株式会社を除く甲事件本訴原告らの各負担とし、乙事件について生じたものはこれを二八分し、その一を乙事件被告らの、その余を乙事件原告の各負担とする。

九  この判決の第一項ないし第五項は、仮に執行することができる。

理由

第一  甲事件本訴請求

一  被告ジャコスに対する請求原因について

1  代理店契約等の締結

原告セイコー辻本と被告ジャコスが凌駕システムについての総合代理店契約を締結したこと、原告プラスパーシステム、同キープロン及び同フィチュアシステムが被告ジャコスと凌駕システムについての代理店契約を締結したこと並びに原告日本漢方同仁が被告ジャコスと凌駕システムのユーザー契約を締結したこと(請求原因(二))は、いずれも当事者間に争いはない。

そして、《証拠略》によれば、凌駕システムに関する総合代理店及び代理店契約の概要は次のとおりであることが認められる。

被告ジャコスは凌駕システムを直接販売せずに、代理店を通じてのみ販売する。代理店契約の際支払う代理店加盟料には凌駕システム一台分の代金が含まれ、代理店は自動的に凌駕システムのユーザーにもなる。代理店に加盟後三か月以内に一五以上の代理店を獲得すると総合代理店となり、販売業績に対して代理店が被告ジャコスから受け取るマージン率が代理店に比べ有利になる。総合代理店のマージン率は、代理店獲得につき三〇パーセント、ユーザー獲得につき二五パーセントを原則とする。総合代理店は、自己の下に設けた代理店が被告ジャコスに対して負担する一切の債務及び右代理店又は自己が販売した凌駕システムに関しユーザーが被告ジャコスに対して負担する一切の債務について、ユーザーまたは代理店として連帯して弁済する責に任ずる。契約期間は契約締結の日から一年間とし、契約満了の一か月前までにいずれか一方から別段の申し出がない限りさらに一年間契約を延長するものとし以後も同様とする。

さらに、《証拠略》によれば、原告セイコー辻本は総合代理店としての地位を獲得すべく、被告ジャコスと代理店契約を結ぶ際に自ら予め凌駕システム一五台分の代金を払い込み、実際にユーザーを獲得できたら順次その凌駕システムを納入することとしていたことが認められる。

以上の事実を前提とすれば、原告セイコー辻本、同プラスパーシステム、同キープロン及び同フィチュアシステムはそれぞれ被告ジャコスと代理店契約を結ぶと同時に凌駕システムのユーザーとしての地位も有するものと認められるから、被告ジャコスに対する損害賠償請求の根拠である債務不履行の存否については、まず代理店契約とユーザー契約に共通する債務(契約の本旨にしたがつて凌駕システムを提供する債務)についての債務不履行の存否を検討し、次に代理店契約に基づく債務についての債務不履行の存否を検討する。

2  凌駕システムの欠陥の有無

被告ジャコスの原告らに対する前記契約に基づく債務の内容のうち、被告ジャコスがユーザー契約で定められた機能、性能を有する凌駕システムを提供したか否か、すなわち凌駕システムのシステム自体としての欠陥の有無をまず検討する。

(一) パンフレットの位置付け

原告らは凌駕システムの欠陥について凌駕システムに関するパンフレットの記載内容と比較して実際の性能が異なると主張しているので、パンフレットの記載内容と被告ジャコスの契約上の債務の内容すなわちユーザー契約によつて凌駕システムが備えるものとされる性能等との関係を検討するに、《証拠略》によれば、原告らのいうパンフレットとは、被告ジャコスが凌駕システムの利用及び代理店加入を広告、勧誘する目的で作成したものであり、その内容は凌駕システムや凌駕システム代理店制度の概況、利点等を説明するものであること、原告らは右パンフレットにより凌駕システムの内容等を知り契約締結に至つたものであるが右パンフレットはユーザー契約及び代理店契約の契約書に添付されその一部を構成しているものではないこと、ユーザー契約において凌駕システムの仕様として被告ジャコスが保証する内容は、契約書添付の凌駕システム入出力体系図(以下「仕様書」という。)に記載のとおりとされていることが認められる。被告ジャコスが原告らとの代理店契約及びユーザー契約に基づいて負う債務の内容は右契約書によつて定まることは論を俟たないのであつて、右契約書とは別に被告ジャコスが作成したパンフレットがあるとしても、それに記載された内容がそのまま直接被告ジャコスの負う債務の内容を左右するものではないことは明らかである。しかしながら、被告ジャコスが凌駕システムに関して作成したパンフレットの内容は凌駕システムについての当時の被告ジャコスの認識をうかがわせるものであるし、契約書には凌駕システムの性能について別段詳しく記載されていないことを考え合わせると、原告らがこれらのパンフレットを見て凌駕システムを理解し契約を締結した以上、契約締結にあたつて原被告らが合意した凌駕システムの性能は右パンフレットの基本的な記載内容を含むものであつたことを確認することができ、右推認を覆すに足りる証拠はない。とはいえ、前記のとおり右パンフレットは原被告間の合意内容を推認する目的で作成された書面ではなく、被告ジャコスが凌駕システムのユーザー及び代理店の勧誘するため、読む者に凌駕システムやその代理店制度に対する興味を抱かせることを主目的として作成されたものであるのだから、凌駕システムの便利さや代理店となることの利点が強調されて表現、記載されるきらいがあることもまた当然であり、仕様書のほかに右パンフレットの記載も前提として凌駕システムの性能や欠陥の有無を判断するにあたつては、パンフレットの表現の一語一句にとらわれることなく、その基本的な記載内容との比較において欠陥の存否を論じるのが相当である。

(二) 凌駕システムの概要

以上を前提にしたうえで、《証拠略》を総合すれば、凌駕システムは、利用者のパソコンと被告ジャコスの保有する超大型コンピュータをオンラインで結び、利用者が被告ジャコス保有コンピュータの中枢機能部分を共同利用することにより、安価かつ容易に超大型コンピュータを利用することができるとの発想で作られたシステムであり、原被告らがユーザー契約締結にあたつて前提とした性能等の概要は次のとおりであると認められる。

端末機はユーザーが保有するパソコンを使うが、希望すれば被告ジャコスのオリジナル端末機であるジャコ端スリーをサービス価格で購入することができる。ユーザーが端末機に処理する伝票データを打ち込み、オンラインで被告ジャコス保有の超大型ホストコンピュータに伝送すれば、ホストコンピュータが各種データ処理を行つて売上統計や債権管理、在庫管理等必要な管理形態に変換・整理し、再びユーザーの端末機に伝送する。右処理は即時(リアルタイム)に行われるため、ユーザーはホストコンピュータをいつでも自由に利用することができることになる。ホストコンピュータは大型コンピュータなので、入力、処理できるデータ量はほぼ無制限である。一連の操作は画面に対話形式で指示されるため、ユーザーはその指示に従う形で容易に操作することができる。ユーザーとホストコンピュータは公衆電話回線網によつて結ばれるが、被告ジャコスは全国各地に中継基地(アクセスポイント)を設置することを予定しており、各アクセスポイントから被告ジャコスのコンピュータまで通信費用は被告ジャコスが負担するので、各ユーザーは最寄りのアクセスポイントまでの電話料金を負担するだけですむ。大阪をはじめとする関西の各地域にアクセスポイントが設置される。各ユーザーのデータについては、パスワード等による利用者の資格チェック及びデータの暗号化による回線上の盗難防止により、機密保護対策が講じられている。ユーザーはホストコンピュータに接続するためのプログラムのみを持ち、データ処理のプログラムやデータ台帳はすべてホストコンピュータに記憶されているため、ユーザーはプログラムの改善、修理やデータの保管についてコストを負担する必要がない。

したがつて、被告ジャコスの提供した凌駕システムが、右の基本的性能を備えていないものであれば、合意内容にしたがつた本来の履行がないのであるから原被告間の契約の解除原因になりうると考えられる。

(三) 原告主張の具体的欠陥について

そこで、原告が請求原因(三)(1)〈1〉ないし〈13〉において主張する凌駕システムの具体的な欠陥について、その存否を検討する。

〈1〉 オンラインエラー

原告らは、プリントアウトの段階でオンラインエラーが発生するため、凌駕システムは利用に堪えないと主張する。確かに、《証拠略》によれば、昭和六二年九月五日及び同月七日ないし九日の四日間、原告日本漢方同仁において請求明細書をプリントアウトしようとした際、全部のプリントアウトが完了しないまま開始から二〇分ないし五〇分で回線が突然切られるという事態が繰り返されたため、結局、原告日本漢方同仁は請求明細書を全件プリントアウトすることを断念した事実が認められる。しかし、前記証拠によつてはオンラインエラーが発生したこと自体は認められるものの、その原因は不明であるというほかはない(前記証拠ではアクセスポイントからホストコンピュータをつなぐ経路に問題がある可能性も指摘されているが、アクセスポイントを通さずに東京の被告ジャコスに直接電話してホストコンピュータに接続してみても回線切断が発生したとのことであり、そこに原因を認めることもできない)から、このオンラインエラーが凌駕システムの欠陥が原因で発生したものであると認めることができない。そして、これ以外にオンラインエラーが発生したとの具体的事実の存在及びその状況については、証拠上明らかではないから、オンラインエラーが多数回発生した事実を認めることができず、そこから凌駕システムの欠陥の存在を推認することもできないといわざるを得ない。もつとも、《証拠略》にもプリントアウトの段階でオンラインエラーが発生する旨の記載があり、右書面の作成時期は判ぜんとしないもののその内容が原告プラスパーシステムが凌駕システムを三か月稼働させたうえでの認識事項をまとめた形式になつていることから昭和六二年一月末ころに作成されたものと推認されるので、右に記載するオンラインエラーは同年九月に発生した原告日本漢方同仁についての前記事実とは別の事実を指しているものと見られないではない。しかし、その記載もオンラインエラーが発生したと抽象的に指摘するにとどまるものであつて具体的状況は不明であり、これをもつて凌駕システムにオンラインエラーの欠陥があつたことを認めるには足りないのは前記と同様である。他にオンラインエラーの欠陥を認めるべき証拠はない。

〈2〉 モニター画面の表示

弁論の全趣旨により、ジャコ端スリーのモニター画面には一七文字までしか表示されないことが認められる。しかし、一七文字表示されれば商品名を識別するためには一般的には十分であると考えられるから、右事実をもつて凌駕システムに欠陥があるということはできない。

〈3〉 スポット商品の入力

《証拠略》によれば、商品名等としてマスター登録に何を登録するかはユーザーが決めることであり凌駕システムはその選択を制限ないし左右するものではないこと、登録してある商品名はそのコードを入力することにより自動表示されること、未登録の商品名は自動表示はされないが諸口という項目でその都度商品名を入力することができるから、独立した商品として登録する必要のない一時商品(スポット商品)についてもデータの入出力が可能であることの各事実が認められる。ユーザーの販売・購買・在庫管理のためにはスポット商品の扱いが不可欠なものであるとしても、凌駕システムを使用しても前記のような方法で右商品に関するデータを処理できるのであるから、何ら欠陥はない。

〈4〉 売上伝票が二種類のみであること

《証拠略》によれば、被告ジャコスが作成した凌駕システムに関するパンフレットには売上伝票が二四種類作成できると記載されていることが認められ、《証拠略》によれば凌駕システムで作成できる売上伝票は二種類であることが認められる。しかし、右パンフレットの記載と実際の性能との相違は、それが前判示の基本的内容に関するものでない限り欠陥と速断すべきではないことは前述のとおりであるところ、売上伝票が二四種類作成できなければ販売・購買・在庫管理に支障があると認めるべき証拠はなく、また、支障の存在について原告らの具体的な主張もないから、これをもつて欠陥というにはあたらない。

〈5〉 ガイドメッセージが不親切

原告らはガイドメッセージが不親切と主張し、《証拠略》にもその旨の記載がある。しかし、不親切か否かは多分に評価の問題といえるうえ、一般的に画面上ガイドメッセージとしてどのようなものが表示されると使い勝手がよいかは使う側の好みの問題に属する部分もあり、どのようにサイドメッセージを表示させるかは当該プログラムを作る際の営業上の判断である面があると考えられる。そうであるから、ガイドメッセージの不親切が契約の解除原因にあたるべき欠陥であるというためには、当該システムの一般的利用者を基準として、使用に堪えられないほど不親切であることが必要であると解するのが相当である。本件においては、原告らが不親切と感じたこと以外には、証拠上実際に生じた不都合の具体的事実を認めることができず、凌駕システムのガイドメッセージが一般的利用者を基準として使用に堪えられないほど不親切であると認めることはできない。

〈6〉 マニュアルが不備

《証拠略》によれば、凌駕システム動作のため必要な操作はひととおり説明されていることが認められる。確かに、原告らが主張するように、右マニュアルには漢字入力方法についての記載はないが、凌駕システムを利用するにあたつて漢字入力が必要となるのが仕入先、得意先、商品名等を登録する時であり、日常の運用にあたつてはテンキー及びファンクションキーの操作のみでほぼ用が足りると認められるうえ、凌駕システムで使用する漢字変換システムが凌駕システム自体に組み込まれているもので独自の操作を要するものなのか、別の日本語変換プログラムを組み込んで使うものなのかが証拠上不明であり、漢字変換システムがそもそも凌駕システムの一部といえるか否かが明らかではないから、漢字入力方法の記載がないことをもつてマニュアルが不備であるということはできない。

〈7〉 入力代行会社の設置

本件全証拠をもつてしても、被告ジャコスが入力代行業務を行うことないし入力代行のための会社を設置することが凌駕システムユーザー契約時の合意事項となつていたことを認めるに足りる証拠はないうえ、入力代行会社は被告ジャコスが設置しなくても他にあるのだから(現に、《証拠略》によれば、原告日本漢方同仁のための入力業務を訴外FTSシステム販売株式会社が代行している事実が認められる。)、被告ジャコスが入力代行会社を設置したか否かは凌駕システムの欠陥とは無関係というべきである。

〈8〉 技術員が常駐していない

《証拠略》によれば、当時ユーザーが凌駕システムを仕様書にしたがつて使用してもうまく動かなかつた場合には、訴外株式会社ジャコスシステムサービスの社員が対応する態勢がとられていたこと、大阪のユーザーから要請があれば東京から右訴外会社の者が行つて説明等することになつていたこと、そのための人員として十数名の者がいたこと、大阪にはユーザーから要望に対応できる技術員は常駐していなかつたことが認められる。しかし、大阪に技術員が常駐していないことがユーザーにとつて多少は不便であつたことは推測できるけれども、ユーザーは東京の被告ジャコス本社に問い合わせることもできるのであるし、ともあれ当時被告ジャコスの派遣する技術員が大阪のユーザーの要望に対応する態勢はとられていたのであるから、大阪に技術員が常駐していないことが凌駕システムの使用に堪えられないほどの欠陥に値するとは認められない。

〈9〉 取扱い中止による使用不能

本件全証拠によつても、被告ジャコスが凌駕システムの販売を停止していること又は被告ジャコスが凌駕システムの取扱いを停止したことにより既存のユーザーらが凌駕システムを使用することが不可能となつていることを認めるに足りる証拠はない。

〈10〉 リアルタイム処理

《証拠略》によれば、リアルタイム処理とは依頼を受ければ即時に処理して結果を返すことをさすところ、凌駕システムのデータ処理のうち、請求処理(一か月ごとの請求書作成)と月次処理(月報作成)については処理を依頼した翌日に出力するシステムになつており、即時処理とはいえないことが認められる。しかし、それ以外の大部分のデータ処理はリアルタイムでできるのであり、請求処理や月次処理は在庫の状況や得意先の状態等の管理データと異なり緊急性が乏しいものであるから、依頼した翌日に出力されるのであれば十分に使用に堪え得るといえ、欠陥にはあたらない。

さらに、アクセスポイントに接続する電話回線がふさがつている場合には「回線使用中」となりホストコンピュータにつながらないため、リアルタイム処理ができないという原告の主張について検討する。《証拠略》によれば、被告ジャコスが訴外ネットワークサービス株式会社と契約を結び、アクセツポイントとホストコンピュータを結ぶ回線として右ネットワークサービス株式会社が設置管理するアクセスポイント及び特定回線を使用することとしたこと、大阪とホストコンピュータを結ぶ特定回線は二六回線とする契約であつたこと、右ネットワークサービス株式会社のサービス提供開始日は昭和六二年二月一日であつたこと、右サービス開始までの間は被告ジャコスの大阪支店に転送電話を設置し、転送電話とホストコンピュータをつなぐ電話回線を用意して、ユーザーが被告ジャコス大阪支店の転送電話を通じてホストコンピュータとデータをやりとりすることによつて、大阪支店から東京のホストコンピュータまでの電話通信費用を被告ジャコスが負担する方法をとつていたこと、右転送電話のために設置した回線は三回線であつたこと、三回線という数は一つの端末がデータをやりとるするのに二〇分から二五分かかり、単一時間内に四、五件端末から電話がかかつてくるとの想定のもとに、NTTで使われている計算式により必要な回線数を算出した数であることであることがそれぞれ認められる。以上によれば、訴外ネットワークサービス株式会社がサービス提供を開始するまでの間は、ユーザーの端末からのアクセスが被告ジャコスが想定した前記の数を大幅に超えれば必要回線数計算の前提が狂うのであるから、いつでも回線がふさがつていてユーザーが使いたいときに利用できないという状況が発生することは考えられるけれども、本件においては端末からのアクセスが想定数を超えて殺到した事実は認められないし、原告らの主張も一般的にそのような事態がありうるという観念的な指摘の域をでるものではない。そして、実際に回線がしばしば塞がつていて不便であるとの状況が生じたならば、被告ジャコスは回線数を増やすことによりいつでもその状況を改善することが可能であると考えられるから、凌駕システムにはホストコンピュータにつながらないためリアルタイム処理ができない欠陥があるとは認められない。

〈11〉 電話料金

回線エラーがしばしば発生した事実又はその原因が凌駕システムの欠陥によるものである事実が認められないことは前判示のとおりである。したがつて、大阪の凌駕システムユーザーが東京のホストコンピュータに直接電話をかけるのでなければ凌駕システムを使用することができないため、大阪から東京までの膨大な電話料金を負担せざるを得ないとの事実は認められない。

《証拠略》によれば、当時近畿地区では大阪だけにアクセスポイントが設置されていたため、大阪を除く近畿地区から凌駕システムを使用するとすれば、ユーザーは大阪のアクセスポイントまでの市外通話料金を負担することになることは認められる。しかし、大阪の周辺地域から大阪市内までの通話は市外通話とはいえ全国的視野から見れば市内電話とほぼ同視できるものであるし、前記証言により被告ジャコスは大阪以外の周辺地区においても需要があれば順次アクセスポイントを設置していく予定であつたことも認められるところ、当時実際に大阪以外の近畿地区にアクセスポイントを設けるほど凌駕システム利用の需要があつたとは証拠上認められないから、大阪以外にアクセスポイントが設置されていなかつたことをもつて債務の内容たるパンフレットの基本的記載内容に相違するとはいえず、債務不履行にはあたらない。

〈12〉 機密保護

《証拠略》によれば、凌駕システムはフロッピーディスクがあれば当該フロッピーディスクのユーザーのデータ内容を知ることができるものであると認められ、これを覆すに足りる証拠はない。だとすれば、パスワード等で利用者の資格チェックをすることによつて機密保護を図つているとのパンフレットの記載は、実際の機能と相違するものであるといわざるを得ないが、他人のフロッピーディスクを入手して使用することによりデータを盗取する蓋然性は低いと考えられ、一方、ネットワーク上でのデータ盗難防止措置をとられていないことを認めるに足りる証拠はないから、フロッピーディスクを盗取された際に当該ユーザーのデータ内容が知られるおそれがあることをもつて、凌駕システムが営業のための使用には堪えない機密保護上の欠陥を有すると認めることはできない。

〈13〉 電話番号での登録

《証拠略》には、凌駕システムについて取引先の登録が電話番号でできる旨の記載があることが認められるが、《証拠略》に照らし、それが凌駕システム利用の契約内容であることを認めるには足りず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

3  バックアップ体制について

(一) パンフレットの位置づけ及びその内容

次に、代理店契約に基づくバックアップ体制に関して、被告ジャコスの債務不履行の有無を検討する。ここにおいても、被告ジャコスが作成したパンフレットの記載のうち、基本的な内容が被告ジャコスの代理店契約における債務の内容を補充しているとみるべきことは、前記凌駕システム自体の欠陥について論じたのと同様である。

《証拠略》によれば、本件代理店契約において、代理店に期待される主な役割は凌駕システムを使用する顧客を開拓して被告ジャコスに紹介することであり、代理店になろうとする者が凌駕システム及びコンピュータについての十分な知識を有していることを予定せず、凌駕システムの維持運営に関わる顧客サービスは被告ジャコスが主に担当することとされていたこと、代理店は販売実績に応じて売上額の二五ないし三五パーセントのバックマージンを得るとされていること、販売についてのノルマや制裁は別段課されてないこと、被告ジャコスは代理店の販売活動を支援するため有償での販売用ツールの提供や要員教育等を行うこととされていることが認められる。

(二) 継続的契約関係の解消について

ところで、本件における代理店契約はいわゆる継続的契約関係であるところ、一般に継続的契約関係においては当事者間の信頼関係が契約関係成立の基礎となるので、右関係の解消にあたつては、一方当事者に信頼関係を破壊し契約関係の継続を期待できなくするような債務不履行があることが必要とされるものである。さらに本件においては、前記のとおり契約期間の定めがあるので、甲事件原告らの主張する右期間中の契約解消が認められるためには、前記のバックアップ体制に関して被告ジャコスにささいな契約違反が認められたとしても、右契約違反が信頼関係を破壊するものであり、もはや契約関係の継続を期待できないというべき事情が認められない限り、解除原因にはあたらないと解するのが相当である。

(三) 請求原因1(三)(2)の各不履行事実の存否

そこで、甲事件原告らが債務不履行であると主張する事実の存否をまず検討する。

〈1〉 販促ツールの提供

《証拠略》によれば、被告ジャコスは原告キープロンに対して一定部数のパンフレットを渡したものの、追加提供を求めても受け入れられなかつたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。その余の原告らについては、被告ジャコスに対しパンフレットの提供を要求しても得られなかつたことをうかがわせる事実は証拠上認められない。

〈2〉 ショールーム開設

《証拠略》によれば、被告ジャコスは凌駕システムのショールームを開設したこと、それを昭和六二年三月または同六三年四月に廃止したことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

〈3〉 研修会の実施

原告プラスパーシステム代表者本人尋問の結果によれば、被告ジャコスが代理店の研修会を開いたことが認められる。

〈4〉 セールステクニック集の配付

《証拠略》によれば、代理店勧誘のためのパンフレットにはセースルトーク集等を被告ジャコスが用意するから営業活動が容易に行える旨の記載があることが認められるところ、《証拠略》によれば、被告ジャコスは甲事件原告らに販売指導書の配付をしなかつたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(四) 解除原因の存否

以上によれば、原告らがバックアップ体制の不備として主張する事実は、研修会の不実施を除き一応認めることができる。しかしながら、前記のとおり本件代理店契約においては、代理店は加盟金名下に凌駕システム一台を購入することにより代理店となることができ、他に代理店契約に基づく金銭支払い義務を負わないこと、代理店には販売ノルマは課せられておらず、その義務の内容は代理店としての忠実義務を中心として消極的なものであること、コンピュータソフトという商品の性質上、代理店は在庫の保管、配送等について費用を要しないこと、ユーザー契約自体は通常顧客と被告ジャコスとの間で結ばれることが想定されており、売主としての責任は被告ジャコスが全て負担すること、凌駕システム販売の際に被告ジャコスから代理店に支払われるバックマージンは売上額の二五ないし三〇パーセントとされていること等、代理店にとつては負担が少なく利益の大きい条項を有するものである。また、逆に被告ジャコスの側にとつてみれば、代理店契約はバックマージンを支払うことによつて自らは凌駕システム販売のための営業活動をしなくてすむという利点があるのであり、双方が代理店契約を結ぶに至つた利害の一致はこの点にみることができる。そうすると、営業活動自体は第一次的には代理店の責任においてなすべきであり、代理店契約における被告ジャコスの主たる義務は代理店が見つけてきた顧客に対して遅滞なく凌駕システムのユーザー契約を締結して、顧客において凌駕システムを使用可能な状態におくことであると考えられ、被告ジャコスの行うべき販売支援義務は凌駕システムの販売営業活動全体からみれば副次的なものにすぎないというべきである。さらに、パンフレット等の印刷やショールームの開設運営にはある程度費用がかかることを考え合わせると、パンフレットやショールームの存在によつて凌駕システムに興味を示す顧客の多寡に応じて被告ジャコスが右の費用投下を決することは経済活動としてやむを得ないことでもあるといえる。前判示のとおり被告ジャコスはその主たる義務である凌駕システムの供給義務を尽くしていると認められるのであるから、原告らが被告ジャコスのバックアップ体制の不備として主張する各事実は、原被告らの代理店契約関係の継続を期待できなくするような債務不履行にはあたらないものというべきである。

4  EOSシステムの欠陥について

後述のとおり、EOSシステムが被告音羽の受発注義務に使用できないものであるとは認められない。

5  凌駕システムについての結論

結局、原被告間の凌駕システムについてのユーザー契約及び代理店契約並びにEOSシステムについての総合代理店契約に関し、被告ジャコスに債務不履行は認められないから、その余の点について考慮するまでもなく、甲事件原告らの被告ジャコスに対する請求には理由がない。

二  被告インテックリースに対する請求原因について

被告インテックリースが凌駕システムについてのリース料債権をすでに被告ジャコスへ譲渡したと主張しており、甲事件原告らに対して凌駕システムについてのリース料債権を有すると主張していないことは当裁判所に顕著である。したがつて、甲事件原告らの被告インテックリースに対する債務不存在確認請求は訴えの利益を欠くものである。

第二  甲事件反訴請求

一  請求原因について

1  甲事件反訴被告らが被告インテックリースと凌駕システムについての本件各リース契約を締結したことは当事者間に争いがない。

2  甲事件反訴被告らが請求原因(二)に記載する各日時に所定の月額リース料を支払わなかつたことは当事者間に争いがない。

3  被告ジャコスが請求原因(三)で主張する被告インテックリースからジャコスへのリース料債権譲渡の事実及び被告インテックリースが右債権譲渡について債務者である各甲事件反訴被告らに通知した事実は、《証拠略》により認められる。

二  抗弁(一)(リース料請求停止の合意)について

被告インテックリースが、甲事件反訴被告らに対し、本件各リース契約に基づくリース料の支払を催告することを昭和六三年ころから事実上停止していたことは、弁論の全趣旨により認められる。しかしながら、一方で前記のとおり被告インテックリースがジャコスに本件リース契約の残債権を譲渡している事実が認められること及び弁論の全趣旨に照らせば、右事実上の請求停止をもつて、被告インテックリースが甲事件反訴被告らに対するリース料債権を免除ないし放棄していたと推認することはできず、他に甲事件反訴被告ら主張のような請求停止ないし免除の合意を認めるに足りる証拠はない。

三  抗弁(二)(信義則)について

凌駕システムについてのユーザー契約及び代理店契約に関し、ジャコスに債務不履行が認められないことは前判示のとおりであるから、債務不履行の存在を前提とする甲事件反訴被告らの主張は、理由がないことが明らかである。

四  抗弁(三)(相殺)について

前判示のとおり甲事件本訴請求における甲事件反訴被告らの損害賠償請求は認められないから、これを自働債権とする相殺の主張もまた理由がない。

第三  乙事件請求

一  請求原因について

1  業務委託契約及び保証契約の締結

被告音羽が被告ジャコスとの間で本件業務委託契約を締結したこと及び右契約により被告音羽が被告ジャコスに対し負担する債務について原告セイコー辻本が連帯保証をしたことは、当事者間に争いがない。

2  被告ジャコスの履行

(一) 本件業務委託契約の内容

《証拠略》によれば、本件業務委託契約の締結に至る経緯及びその内容は、次のとおりであることが認められる。

(1) 被告音羽は二六店舗を有する寿司のチェーン店を経営しているが、各店舗で使うネタの仕入、発注について、従前は各店が被告音羽の本部に手書きの注文書を持参し、本部においてそれを集計して、まとめて市場に買い付けに行く方法をとつていたところ、昭和六一年春ころから、注文書の持参及び集計に要する時間及び労力を省くため、コンピュータシステムの導入を検討するようになつた。そして、被告ジャコスの特約店である原告セイコー辻本を通じて、被告ジャコスが運営するEOSシステムを利用して受発注業務を行うこととし、本件業務委託契約を締結した。

(2) EOSシステムを使つた受発注業務の方法の概要は、およそ次のとおりである。

被告音羽の本部に端末機一台をおき、各店舗には入力用のハンディターミナルを各一台設置する。各店舗では、被告ジャコスが作成提出した注文台帳(オーダーブック)の注文したい品種及び量に対応するバーコードをハンディターミナルに接続する読取器(スキャナー)でなぞり、発注の入力をして、そのデータを電話回線に使つて被告ジャコスのセンターに送信する。右センターのコンピュータは集録された各店の発注データを集計処理して被告音羽本部の端末機に配信する。各店舗からの送信は、センターのコンピュータがデータ処理に要する時間帯(約一時間)を除き、二四時間体制で可能である。被告音羽本部では、センターコンピュータから配信された受発注データにより発注業務を行い、各店舗別に作成される品揃表にしたがつて各店舗に納品することができる。

EOSシステムを利用する場合には、システムの基本ソフトとして被告ジャコスが開発した「ニューオーダーVAN{2}」を他のユーザーと共用し、そのうえで各ユーザーに応じた応用ソフトを付け加える方法がとられ、商品台帳に登録する商品の種類等はユーザーの要望に沿つて決定されるものである。

(3) 本件業務委託契約の期間は五年間と定められ、その五年間に本件業務委託契約に基づき被告音羽が負担する費用額は、EOSシステム構築のため当初要する費用として、契約料五〇万円、端末機器代金七二五万円(本部端末機一台七五万円、ハンディターミナル二六台・単価二五万円)、被告音羽用特殊ソフト開発料金二〇〇万円、商品マスター登録料(一品につき八〇円)、システム稼働基本料金(端末回線登録基本料金)二六〇〇万円(ハンディターミナル一台につき一〇〇万円)とされ、その他にデータ処理一件につき二円の料金を支払うことと定められたが、商品マスター登録料及びオーダーブック作成費用は、登録する商品量にもよることから、費用が確定してから被告ジャコスにおいて請求するものとされた。

(二) 被告ジャコスの履行

《証拠略》により、以下の事実が認められる。

(1) 被告ジャコスでは、被告音羽の商品マスター台帳を登録するために被告音羽と登録する商品の種類について打ち合わせをしたところ、被告音羽が営んでいるのは寿司店であり、二六店舗の中には小さい店もあることから、受発注の際には、「マグロ半身」や「マグロ四半身」等、一未満の単位で注文できることが必須であると確認された。被告音羽の見積もりでは、登録する商品の数は一〇〇〇未満ということだつたので、一三桁のコードナンバーのうち三桁を商品名に当てることにして登録作業を進めたところ、たとえばハマチ一キロ、ハマチ二分の一、ハマチ四分の一をそれぞれ別の商品として登録したため、商品数が当初の見積もりである一〇〇〇を超えることになり、商品コードを四桁に増やしてコードナンバーを入力し直す結果になつた。

(2) 被告ジャコスは昭和六二年九月一一日ころまでには商品の登録及びオーダーブックの作成を作成し、ハンディターミナルから被告ジャコスのセンターへデータを送るテストをしたうえ、同年一〇月一三日までの被告音羽の各店舗にハンディターミナルを、被告音羽本部に端末機をそれぞれ設置して、同日、被告音羽の酒匂総務部長と地区長ら及び原告セイコー辻本の営業担当者の立会いで説明会を開いた。

(3) 昭和六二年一一月四日から、被告音羽では実際にEOSシステムでの受発注業務を始めてみたところ、たとえばハマチ一キロとハマチ二分の一を別の商品としてバーコードをスキャナーで擦る方法よりも、まずハマチのバーコードを擦つた後にキーボードで注文量を入力する方法の方が便利であるとの結論になり、同月一八日ころその旨のソフトの改善を被告ジャコスに要望し、被告ジャコスは同年一二月一五日ころまでに要望にそつたソフトの変更をした。

(4) 以上の経過により、被告ジャコスはEOSシステム構築のための作業を完了し、被告音羽において右システムが使用可能となつた。

3  代金額の確定

オーダーブック作成費と商品マスター登録料がそれぞれ請求原因(四)記載のとおり確定したこと及び被告ジャコスが被告音羽に対し右記載の代金合計二八二七万五一八〇円を昭和六二年一一月三〇日を支払期限として請求したことは、《証拠略》により認められる。

二  抗弁(一)(解除)について

1  稼働開始時期の合意

被告音羽は本件業務委託には昭和六二年一一月までにEOSシステムの稼働を開始させる旨の合意があつたと主張する。被告音羽と被告ジャコスの打ち合わせの結果、寿司店が繁忙になる一二月にはシステムが順調に稼働できるようにするため、一一月一日に本番がスタートするよう日程が組まれたことは、《証拠略》により認められる。

2  昭和六二年一一月三〇日が経過したことは当裁判所に明らかである。

3  被告音羽が昭和六二年一二月二六日到達の内容証明郵便をもつて契約解除の意思表示をしたことは、《証拠略》により認められる。

三  抗弁(一)に対する再抗弁について

前記のとおり、被告ジャコスは昭和六二年一一月上旬までに被告音羽のためのEOSシステムの構築を一応完了したものの、被告が音羽が実際に使つてみた結果改善要求が出され、そのソフト改良がすんだのは同年一二月一五日ころであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右によれば、被告ジャコスが被告音羽のためのソフトを最終的に完成させたのは、当初計画した一一月を過ぎてからであることは被告音羽の主張のとおりである。しかし、一般的に、使い勝手のよいシステムを構築するためには、実際に使うユーザーの意見を聞いて改良するという手順が繰り返される必要があり、そのためにはユーザーからの積極的な意見の提出や協力が不可欠であるところ、前掲証拠によれば、被告音羽内部においては、仕入業務を実際に行う各店舗の現場担当者の意見吸い上げが不十分だつたため、被告ジャコスとの打ち合わせを行う本部の担当者は現場で使いやすい注文方法について十分には把握しきれていなかつたきらいがあるように見受けられ、その結果、前記のとおりの経過でシステム構築に余計時間がかかつたと認めることができる。もつとも、システムを提供する被告ジャコスの側としても、コンピュータシステムに慣れていないユーザーに対しては、ユーザーからの的確な情報を引き出すために、注文入力の方法としてどのようなものがあるか、それぞれの方法にはどんな長所短所があるか等の情報を十分提供することが必要であり、さらに場合によつては、被告ジャコス自らが被告音羽の現場に出向いて実際に操作する担当者の意見、感想も集めたうえ、使いやすいシステムを作つていく努力が求められるものであるが、被告ジャコスにおいては、被告音羽の登録商品数を聞き取るに際して具体的な入力方法の例を十分説明したか疑問が残るし、被告ジャコスが自ら現場の意見を集めることはしなかつたことは証人野林の証言からも認められる。そうしてみれば被告ジャコスにも若干不親切な点があつたうらみはあるが、いずれにしろユーザーが満足するシステムの構築にはユーザーの意見協力が不可欠なのである以上、被告音羽からの改善要求にしたがつてソフトの手直しを繰り返した前記の経過のもとにおいては、システムの完成が当初の予定より若干遅れたことがすべて被告ジャコスの責任によるものであるとはいえない。また、前記のとおり一一月末という期限は被告音羽の繁忙期までにシステムに慣れるという目的で定められたものであつて、被告音羽において右期限を過ぎればシステム導入の意味がなくなるような性質のものではないことに鑑みれば、被告音羽が一一月半ばをすぎてから注文量の入力方法変更を被告ジャコスに申し入れている事実は、被告音羽においても一一月中にシステムが完成しないことを容認していたと推認させるものである。

以上の経過によれば、被告ジャコスのEOSシステム構築の履行は、被告音羽との合意の期限から違法に遅れたものであるということはできず、被告ジャコスには解除原因となるべき履行遅滞は認められない。

四  抗弁(二)(解約告知)及び同抗弁に対する再抗弁について

本件業務委託契約の契約期間は契約締結の日から五年間とし、期間満了の三か月前までに被告ジャコス、被告音羽のいずれからも特段の意思表示がないときはさらに五年間延長するものとし、以後もその例によるとする定めがあることが《証拠略》によつて認められるところ、被告音羽は契約期間中の中途解約を主張する。

本件業務委託契約は、被告音羽が被告ジャコスに対しEOSシステムによる受発注データ処理業務を委託する契約であるから、法律行為以外の事務をなすことを委託する準委任契約であり、原則として委任者は自由に契約を解約でき、その限りで被告音羽の抗弁は理由がある。

被告ジャコスは本件業務委託契約は同被告の利益のためにも締結されていると主張する。しかしながら、本件業務委託契約の内容は前記のとおりであり、被告ジャコスはシステム構築費用として一定の対価を受ける外システムの稼働に伴うものとしてシステム稼働料金(端末回線登録基本料金)、データ処理料金(一件につき二円)を対価として受けとるようになつているが、右対価はいわゆるハード、ソフトの代金のほかは、《証拠略》によれば、データ処理に伴う報酬と認められ、本件業務委託契約上この報酬以上に被告ジャコスが本件業務委託契約により利益を受けることは予定されてはおらず、もとよりデータ処理をすること自体が被告ジャコスにとつての利益とはいえないから、本件業務委託契約が被告ジャコスの利益のためにも締結されているとはいえない。

また、被告ジャコスは本件業務契約は期間を定めた契約であり解除権は制限されると主張する。準委任契約であつても当事者が契約期間を定めているときは、事情により当事者が契約の自由な解除権を放棄をしたものと認められる場合があり、このような場合には、当事者は特段の事情がない限り定められた期間中は契約を解除することができないと解すべきであるから、本件業務委託契約において右のような事情があるかどうか検討する。

本件では、《証拠略》によれば、回線登録基本料を定めるにあたつて、一店舗につき月額二万円を基準として、一年間で二四万円、五年間で一二〇万円となるところを五年分一括して支払うなら一〇〇万円とするとの計算のもとに、二六店舗分の回線登録基本料が二六〇〇万円と定められた経緯が認められ、このことからすれば、契約締結当時被告音羽においても一応は五年の間契約関係を継続することが予定していたというべきであるが、前記のとおり右登録基本料はデータ処理の報酬であり、元来はデータ処理に応じて支払われば足りるものであり、それゆえ、右のとおり基本的には月単位で定められ、それを五年分一括して支払う形を取つているものと認められるのであつて、必ずしも五年の期間が必然的なものでないこと、前記のとおりデータ処理はホストコンピュータに対する回線を通じて行われ、被告ジャコスは被告音羽に対し右処理のため回線を確保しているのであるが、右確保にかかる回線については、本件業務委託契約が中途で打ち切られても、別の顧客に提供できるので、中途で契約が終了しても被告ジャコスに格別の不利益を与えないこと、本件のようなコンピューターによるデーター処理についてはソフト、ハードに対する信頼が重要であり、その使い勝手は勿論、ユーザーの立場からすれば、新規に開発されたより良いもの(より信頼度の高いもの)に交換する自由を保証されてしかるべきこと等からすれば、本件業務委託契約において五年の期間中、被告音羽において解除権を放棄したとまでいうことはできない。

被告ジャコスの再抗弁は理由がなく、本件業務委託契約は昭和六二年一二月二六日限り終了したものであり、被告ジャコスは本件業務委託契約の対価につき、端末回線登録基本料金を除く費用については、既に作業を終了しているものであるから、その金額二二七万五一八〇円、右基本料金については、期間徒過分、すなわち、昭和六二年六月二七日から昭和六二年一二月二六日までの六月間二六〇万円(五年間二六〇〇万円の六月分、前記のとおり本件業務委託契約にかかるシステムが稼働し始めた時期は契約締結日より遅れているが、契約締結日から被告音羽に対する回線の確保がなされていたものというべきであるから、右期間の経過に対応する料金の請求が認められるべきである。)、以上合計四八七万五一八〇円を、被告音羽及び原告セイコー辻本に請求し得るものというべきである。

五  抗弁(三)(詐欺により取消し)について

被告音羽の主張は、EOSシステムが被告音羽において使用できないものであることを前提するところ、前判示のとおり、被告ジャコスは被告音羽に適するEOSシステムの構築を履行しているので、抗弁(三)はその前提を欠き理由がない。

六  抗弁(四)(錯誤無効)について

被告音羽の主張は、右抗弁(三)と同様、EOSシステムが使用できないことを前提とするものであるから、理由がない。

七  抗弁(五)(公序良俗違反による無効)について

被告音羽は、被告音羽が実際にはEOSシステムを稼働させていないにもかかわらず端末回線登録基本料金の支払義務を負う合意は公序良俗に反すると主張する。しかしながら、前判示のとおり、被告ジャコスは本件業務委託契約に基づいて被告音羽に対し受発注業務に関するシステム構築を履行していると認められるのであり、本件業務委託契約におけるEOSシステム利用の対価は前記のとおり端末一台あたり五年間で一〇〇万円の登録基本料金と一件二円のデータ処理料金からなる旨定められているのであるから、被告音羽が自己の都合によりEOSシステムを使用しなかつたとしても、データ処理件数とは別に登録基本料金の支払義務は負うものである。右料金は端末一台あたり五年間で一〇〇万円、一か月あたりでは二万円に相当するが、右金額は前記のような受発注データ処理業務を委託する対価として不相当に高額ということはないし、被告ジャコスにとつてはコンピュータでデータ処理するための費用以外に、EOSシステム開発費やデータエリアの確保のための費用等、固定的に発生する費用もあるのであるから、データ処理件数に応じた処理料金とは別に一定額の基本料金を定めることにも合理性が認められる。したがつて、本件業務委託契約における端末回線登録基本料金の定めが公序良俗に反することはないから、抗弁(五)は理由がない。

八  原告セイコー辻本の抗弁(六)(相殺)について

《証拠略》によれば、原告セイコー辻本と被告ジャコスとの間に原告セイコー辻本が主張するとおりの総合代理店販売手数料についての合意が存したことが認められ、これに反する証拠はない。したがつて、原告セイコー辻本は被告ジャコスに対し、機器納入総額(七二五万円)の五〇パーセント(三六二万五〇〇〇円)の販売手数料債権を有している。なお、端末登録基本料金の販売手数料については、前判示のとおり本件業務委託契約が原則として自由に解約できるものであり、かつ、代理店は顧客が被告ジャコスに対して負う債務を連帯保証しているものであることを考慮すれば、右の販売手数料の額は被告ジャコスにおいて現実に顧客に請求し得る額を基準として算出するのが相当であり、本件では前記のとおり二六〇万円の限度で端末登録基本料金が認められるから、その一〇パーセント(二六万円)が右の販売手数料債権額になる。よつて、原告セイコー辻本が後記意思表示の時点で有する販売手数料債権は、合計三八八万五〇〇〇円である。

原告セイコー辻本が被告ジャコスに対し相殺の意思表示をしたことは当裁判所に顕著である。

右相殺の意思表示により、被告ジャコスが乙事件原告らに対して有している前記本件業務委託契約上の債権四八七万五一八〇円と、原告セイコー辻本の有している販売手数料債権三八八万五〇〇〇円は、相殺適状となつた本件業務委託契約の成立時(昭和六二年六月二七日)に対当額においてそれぞれ消滅した。

第四  結論

以上の事実によれば、甲事件本訴請求のうち、被告ジャコスに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、被告インテックリースに対する請求は訴えの利益がないからこれを却下し、甲事件反訴請求は理由があるからこれを認容し、乙事件請求は前記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小田泰機 裁判官 永野厚郎 裁判官 河本晶子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例